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単純な比較を表す、次の例文の和訳は簡単です。
He is more famous than I. (彼は私よりも有名である)
この比較の表現を反対にする場合には、be動詞の直後にnotを置けば、単純に反対の意味になります。
He is not more famous than I. (彼はわたしよりも有名ではない)
理解するは、特に難しくはありません。
この文中で、notは副詞であり、動詞のisを修飾しています。(ちなみに、副詞は動詞、形容詞、自分以外の副詞を修飾する語です。)つまり、「~である」が否定されて「~でない」となるので、文全体の意味が否定されて、肯定文と全く正反対の意味になります。
ところが、be動詞の直後にnotではなく、noを入れた(否定を表現するのにnoという語を使用した)場合、解釈がかなりややこしくなります。
no more ... than と not more ... than は違う
まず注意しなければならないのは、be動詞の直後にnotを入れた(notという語を使用して否定した)場合とは同じになりません。
つまり、be動詞の直後にnoをいれた場合、比較の表現が反対になるわけではないということです。
ではbe動詞の直後にnoを入れた場合どのように訳せばよいのか、『AとBを...という観点から比較する』という意味の例文を用いて、以下に紹介します。
A is no more ... than B.
〔和訳〕...であるという点では、Bが下であるとかAが上であるといった比較をすることはできず、結局AとBは同等である。
和訳から伺える通り、noを使って否定した場合、比較すること自体を否定することになります。比較すること自体を否定するとは、AとBには比較するほどの差がないため、比較にならない(=比較ができない)ということであり、つまりはAとBは同等ということになります。noという副詞がmoreという比較級を否定し、moreの程度(=存在)がゼロ(=AとBの差がゼロ)であることを表わしています。(このように、noという語は、物や事柄の存在そのものを否定する力を持っています。)
それでは、比較級がmoreではなく、lessの場合はどうでしょう。
A is no less ... than B.
〔和訳〕...であるという点では、Bが上であるとかAが下であるといった比較をすることはできず、結局AとBは同等である。
lessの場合も、結局のところ、AとBは同等ということになります。
ここで、moreとlessを用いた違いが何かというと、事前評価が違うということになります。事前評価では、AとBにどちらかが上で、どちらかが下だろうと考えられていた。そのことに対して、noという語で否定を行い、実際のところはAとBは同等で差がないという意味なのです。
以上を踏まえて、3つの表現の違いを分かりやすく図に示します。
① A is more ... than B. / ② A is not more ... than B. / ③ A is no more ... than B.
① A is less ... than B. / ② A is not less ... than B. / ③ A is no less ... than B.
図でみると、たいへん分かりやすいかと思います。
no more ... than / no less ... than の和訳 <発展型>
さて、以上のように〔no more ... than / no less ... than〕の訳し方が学べたと思いますが、実はこの表現にはさらに発展した和訳が可能なのです。それが、次のような和訳です。
A is no more ... than B.
〔和訳〕...であるという点では、Bが下であるとかAが上であるといった比較をすることはできず、結局AとBは同等である。片方が程度が大きければ、もう片方も程度が大きい。片方が程度が小さければ、もう片方も程度が小さい。
ではこの発展型の和訳を、次の例文で詳しくみてみましょう。
A whale is no more a fish than a horse is.
この英文は通常、「クジラが魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ。」と訳します。
先ほどの和訳の型をこの英文に当てはめてみると、「魚であるという点では、馬が下であるとかクジラが上であるといった比較をすることはできず、結局クジラと馬は同等である。片方が魚である程度が大きければ、もう片方も程度が大きい。片方が魚である程度が小さければ、もう片方も程度が小さい。」となります。やや不格好な和訳になっておりますが、ここからこの和訳をもう少し綺麗に整えたいと思います。
まず、一般常識として、馬は魚類ではありません。そして、クジラはというと、魚類かと思われがちですが、哺乳類であり、魚類ではありません。この英文は、クジラと馬を魚類かどうかという観点から比較していて、事前評価では、クジラが魚類かと思われがちですが、そうではなく、馬が魚類でないのと同じように、クジラも魚類ではないと言っているのです。
したがって、先ほどの不格好な和訳をもう少し整理して「魚であるという点では、馬が下であるとかクジラが上であるといった比較をすることはできず、結局クジラと馬は同等である。馬が魚であれば、クジラも魚である。馬が魚でなければ、クジラも魚ではない。」となります。和訳の際、一般常識から、馬が魚類でないことが分かっているので、「馬が魚であれば、クジラも魚である」という記述は不要となり、つまり「クジラが魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ。」という和訳と同じ内容になることが確認できました。
続けて、lessを使った同様の例文でも試してみましょう。
A whale is no less a mammal than a horse is.
この英文は通常、「クジラが哺乳類であるのは、馬が哺乳類なのと同じだ。」と訳します。一般常識は、馬が哺乳類であることであり、英文の主旨はクジラは魚類と思われがちですが、そうではなく馬と同じ哺乳類であるというものです。
和訳の型を当てはめると、「哺乳類であるという点では、馬が上であるとかクジラが下であるといった比較をすることはできず、結局クジラと馬は同等である。馬が哺乳類であれば、クジラも哺乳類である。馬が哺乳類でなければ、クジラも哺乳類ではない。」となります。
さて、このタイプの和訳の注意点として、「片方が程度が大きければ、もう片方も程度が大きい。片方が程度が小さければ、もう片方も程度が小さい。」の部分は、一般常識から判断できるものと、そうでないものがあります。
馬が哺乳類であり、魚類ではないことは一般常識で分かりますが、通常、ある観点から程度の善し悪しの評価をするのは、非常に難しいのです。例えば、物を盗むことは通常「その行為は許されない」と判断されますが、もし、ある人が飢餓に苦しんでおり、生命の維持のためにやむを得ず、食べ物を盗んだ場合、必ずしも「その行為は許されない」とは言えないと思います。人によって、「許される」「許されない」とその解釈が分かれるのが普通です。他の例として、背の高さに関しても、自分の背の高さを基準にする場合は、人によって「高い」「低い」の評価が分かれます。
なぜこの注意を促したのかというと、英語長文解釈の場合には、筆者の意見が特に書いていなければ、和訳は「同等である」までにとどめておくことが無難だということです。
no more ... than / no less ... than の表面的な意味
簡単な具体例を示すと、
Robert is no more polite than Johnny.
この場合、「礼儀正しさに関しては、RobertとJohnnyは同じ程度である。」が無難な和訳です。
もし、この英文より前の部分に、次のような、
Johnny is impolite.
「Johnnyは無礼である」と筆者の意見があれば、「礼儀正しさに関しては、RobertとJohnnyは同じ程度である。RobertもJohnnyも無礼だ」という訳ができますし、
また、以下のような英文があった場合には
Robert is polite.
「Robertは礼儀正しい」と筆者の意見があれば、「礼儀正しさに関しては、RobertとJohnnyは同じ程度である。RobertもJohnnyも礼儀正しい」という訳になります。
このように、〔no more ... than / no less ... than〕の表現は、表面的にみると、程度が同じであるということしか言っていないのです。程度の方向がどちらに傾くかに関しては、一般常識或いは筆者の考えに基づいた提示がなされていないと、結局のところ両者の程度がどちらの方向に傾いているのか判断できないことになっているのです。
ただし、実際のところは、筆者の意見が明確に示されてなくとも、程度がプラスかマイナスかどちらに傾くのか文脈から(文と文の繋がりの論理性から)判断できることもありますので、その際はしっかりと意訳を行い、英文の内容を把握するように心がけてください!
no more ... than / no less ... than の使用場面
さて、ここでより深く〔no more ... than / no less ... than〕を理解するために、どういった場合にこの表現を用いるのか考えてみましょう。
例えば、あるRobertという人物の人気の高さを尋ねられた時を考えてみましょう。
ここで少し意識しておきたい点として、そもそも『人気の高さ』というのは、身長や体重のように数字(物理量)で示すことができませんので、その程度を表すためには少し工夫した表現が求められます。
さて、仮に、Robertが人気のない人物だとします。そして、世界中の誰もが知っている人気のないPrime Minister Yabeという人物がいるとすると、人気のないPrime Minister Yabeを比較の対象に挙げて、次のように表現することができます。
Robert is no more popular than Prime Minister Yabe.
〔和訳〕Robertの人気は、人気のないPrime Minister Yabeに勝ることなく、同じくらいだよ。(つまり、どちらも人気がない。)
このように、人気者でないPrime Minister Yabeを具体例に挙げて、それよりも人気が勝るわけではなく、同じくらいだと表現できます。具体例があるので、Robertの人気がどのくらいであるか非常に分かりやすい説明になります。
同じように、Robertの人気の高さを、世界的に有名な人気者であったMichael Jacksonを比較の対象に挙げて、
Robert is no less popular than Michael Jackson.
〔和訳〕Robertの人気は人気者であるMichael Jacksonよりも劣ることなく、同じくらいだよ。(つまり、どちらも人気者である。)
このように、人気者のMichael Jacksonを具体例に挙げて、それよりも人気が劣るわけではなく、同じくらいだと表現できます。こちらも具体例があるので、Robertの人気がどのくらいであるか非常に分かりやすい説明になります。
以上の例から、〔no more ... than / no less ... than〕は比較の具体例を挙げて、ある事実の程度を分かりやすく表現する際に用いられることが分かりました。
no more ... than / no less ... than の性質
ここで、次に、さらにもう一歩進んで〔A is no more ... than B〕と〔A is no less ... than B〕の性質について触れたいと思います。
先ほどの例にあるように〔A is no more ... than B〕を使用する場合には、
「AもBも~ではない(例:AもBも人気がない)」という否定的表現を表す場合に用いられることが多いです。
この理由は、〔no more〕の「優れているわけではない」というプラスからマイナスに向かうネガティブな意味の方向に引きずられているからです。
同じように〔A is no less ... than B〕を使用する場合には、
「AもBも~である(例:AもBも人気がある)」という肯定的表現を表す場合に用いられることが多いです。
理由として、〔no less〕の「劣っているわけではない」というマイナスからプラスに向かうポジティブな方向の意味に引きずられているからです。
さて、以上までの説明で、どのような場面で、どのように〔no more ... than / no less ... than〕という表現を用いるのか大方理解いただけたかと思います。
これから〔no more ... than / no less ... than〕 という表現に出会ったら、自信を持って和訳に取り組んでください!