前置詞を使いこなすには、その根源となる空間物理的な意味を把握することが非常に大切です。
前置詞のうち、古くからあるものは、本来は身体的な経験に基づく、空間物理的な意味のみを持っていました。
例えば、部屋の内部にいる時、私たちは壁・床・天井などによって取り囲まれていることを目にします。部屋を容器と考えると、その容器に内包されているように感じられます。英語では、この内包されている感覚を言語的に記号として示すために前置詞「in」が用いられました。“I awoke in my bedroom. (私は寝室で目覚めた。)”と言うと、寝室という容器(空間)に内包されている状態を言い表します。
このような前置詞が持つ空間物理的な意味は、後に比喩的にいろいろな意味に拡がり、拡張されて使用されるようになりました。
例えば、前置詞「in」の空間的な内包が「人間の間にある感情的状態」に及ぶと“John is in love.(ジョンは恋をしている。)”と言うことができ、本来空間的な内包を表わす前置詞「in」が状況に関わる関係を表現するのに拡張されて使用されるようになりました。
このような事情から、前置詞を使いこなすには、まず根源となる空間物理的な意味を知り、そしてその根源となる意味を基にして、前置詞の用法がどのように拡がっていったのかを知ることが重要な鍵となります。
さらに、前置詞の「in」は日本語に訳すと「～に」となる場合が多いですが、日本人にとって「～に」(助詞)は単に単語と単語をつなぐ役割であり、空間や形などの空間物理的な意味を持つ英語の前置詞とは全く異なる性質を持つものであるため、日本語の助詞(訳語)と英語の前置詞を完全に切り離して理解することが前置詞を理解して使いこなす上での最大のポイントになります。
それでは、前置詞ひとつひとつについて、その根源の意味と拡張された用法を解説していきたいと思いますが、その前に、前置詞の基本知識をお伝えしておかなければなりません。
前置詞の基礎知識
前置詞は「前に置く詞(ことば)」という名前の通り、何かの前に置くことが意識されます。
その何かとは「名詞」です。つまり、前置詞とは「名詞の前に置く詞(ことば)」になります。ここで前置詞の直後に置かれる「名詞」は「前置詞の目的語」と呼ばれます。
そもそも、なぜ、わざわざ名詞の前に前置詞を置くのでしょうか。
その意図は、他の語を説明(修飾)するためです。「名詞」は形容詞のように単独で他の語を説明(修飾)することができません。「名詞」は前置詞の力を借りることによって、他の語を説明(修飾)することができるようになります。
例えば、“a book on the desk (机の上の本)”という表現では「on the desk(前置詞+名詞)」が「book(名詞)」を説明します。
また、“swim in the river (川で泳ぐ)”という表現では「in the river(前置詞+名詞)」が「swim(動詞)」を説明します。
英文法では、名詞を説明(修飾)する語は「形容詞」と呼ばれます。動詞を説明(修飾)する語は「副詞」と呼ばれます。
「前置詞+名詞」はセットで、句(語のかたまり)という単位で呼ぶことができます。
したがって、先ほどの例の“a book on the desk (机の上の本)”の「on the desk(前置詞+名詞)」は「book(名詞)」を説明していて、形容詞と同じ働きをする句なので、「形容詞句」と呼ぶことができます。
“swim in the river (川で泳ぐ)”では「in the river(前置詞+名詞)」が「swim(動詞)」を説明していて、副詞と同じ働きをする句なので、「副詞句」と呼ぶことができます。
つまり、「前置詞+名詞」という語のかたまりは、「形容詞句」あるいは「副詞句」となり、「名詞」あるいは「動詞」を説明(修飾)する働きを行えるようになります。
ちなみに、副詞は動詞修飾が基本ですが、他にも「形容詞」や「自分以外の副詞」、「文全体」についても修飾することが可能です。
このことを考慮すると、「形容詞句」あるいは「副詞句」となる「前置詞+名詞」の語のかたまりは、「名詞」「動詞」「形容詞」「自分以外の副詞」「句/節/文全体」を修飾することができる幅広い修飾機能を持った句であるといえます。
また、形容詞は補語になることができますので、形容詞と同じ働きをする「前置詞+名詞」も同じように補語になることができます。
さて、前置詞の用法についての理解を深めるためには、「前置詞+名詞」という語のかたまりが文中のどの部分を修飾しているか、或いは補語として存在しているのかを捉えることもひとつ重要になりますので、このような視点を大切にして前置詞を使いこなせるように学習していただければと思います。
それでは、本題に移ります。今回は前置詞「behind」について解説します。
前置詞「behind」の意味と用法
前置詞「behind」は「be(側に)hind(後ろの方)」という意味で、その根源となる空間物理的意味は「～の後ろに」という『位置』を表わします。
前置詞「behind」は、この根源となる空間物理的な「～の後ろの位置」をもとに、遅れ、背後事情、支援などを表わす際に用いられます。
前置詞の「behind」は、元々の「後ろの位置にいる」ことから、遅れているという意味に拡がり、また、後ろに何かの事情を抱えているというような背後事情について表現したり、後ろから支援・支持するというように支援や支持の意味も表わすようになりました。
以上までの情報をもとに、前置詞「behind」をキーワード化させると次のようになります。
1. 後ろの位置の「behind」
2. 遅れの「behind」
3. 背後事情の「behind」
4. 支援・支持の「behind」
それぞれのキーワードについて、例文を確認してみましょう。
1. 後ろの位置の「behind」
- 前置詞の目的語として位置の基準とする語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)の後ろに」という修飾要素を作ります。
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【例】A police car is right behind us. (パトカーが私たちのすぐ後ろにいる。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「us」とセットで「behind us」という形容詞句を作り、私たちの後ろの位置を表わしています。
そして、形容詞句「behind us」は、補語として主語(名詞)「A police」の状態を説明しています。
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【例】I turned to look behind me. (私は振り返って後ろを見た。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「me」とセットで「behind me」という副詞句を作り、 私の後ろの位置を表わしています。
そして、副詞句「behind me」は、動詞(不定詞)「to look」を修飾しています。
2. 遅れの「behind」
- 前置詞の目的語に、進み具合の比較対象となる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)に遅れて」という修飾要素を作ります。
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【例】The flight is twenty minutes behind schedule. (その便は定刻より20分遅れている。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「schedule」とセットで「behind schedule」という形容詞句を作り、定刻より遅れていることを表わしています。
そして、形容詞句「behind schedule」は、補語として主語(名詞)「The flight」の状態を説明しています。
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【例】I was behind the rest of the class. (私はクラスの他の生徒よりも遅れていた。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「the rest of the class」とセットで「behind the rest of the class」という形容詞句を作り、クラスの他の生徒より遅れていることを表わしています。
そして、形容詞句「behind the rest of class」は、補語として主語(名詞)「I」の状態を説明しています。
3. 背後事情の「behind」
- 前置詞の目的語に、背後に事情があると考えられる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)の背後にある」という修飾要素を作ります。
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【例】Police say drugs traffickers are behind the resurgence of violence. (警察によれば、暴力が再発している背後には麻薬取引が絡んでいるようです。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「the resurgence of violence」とセットで「behind the resurgence of violence」という形容詞句を作り、 暴力の再発に背後事情があることを表わしています。
そして、形容詞句「behind the resurgence of violence」は、補語として主語(名詞の)「drugs traffickers」の状態を説明しています。
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【例】It seems that what lay behind the clashes was disagreement over the list of candidates. (その衝突の背後には候補者選びに関するもめごとがあったようです。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「the clashes」とセットで「behind the clashes」という副詞句を作り、 その衝突に背後事情があることを表わしています。
そして、副詞句「behind the clashes」は、動詞「lay」を説明しています。
4. 支援・支持の「behind」
- 前置詞の目的語に、支援の対象となる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)を支援して」という修飾要素を作ります。
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【例】I’ll be right behind you. (私があなたを支援するよ。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「you」とセットで「behind you」という形容詞句を作り、あなたが支援されていることを表わしています。
そして、形容詞句「behind you」は、補語として主語(名詞)「I」の状態を説明しています。
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【例】The boss is behind our plan. (その上司は私たちの計画を支持している。)
【説明】前置詞「behind」は、前置詞の目的語「our plan」とセットで「behind our plan」という形容詞句を作り、私たちの計画が支持されていることを表わしています。
そして、形容詞句「behind our plan」は、補語として主語(名詞)「The boss」の状態を説明しています。
次に副詞としての「behind」について説明します。
副詞「behind」の意味と用法
「behind」は副詞として使われることもあります。つまり、「behind」単独で動詞、形容詞、自分以外の副詞、句・節・文を修飾することが可能です。
この場合、副詞「behind」は「～の後ろに」という後ろの位置の意味と「～に遅れて」という遅れの意味を表わすことが多いです。
例文で確認してみましょう。
【例】The policeman was following close behind. (その警官がすぐ後ろについてきていた。)
【説明】副詞「behind」は「後ろに」という後ろの位置を表わしています。
また、「behind」は動詞(進行形)「was following」を修飾しています。
【例】The bus is five minutes behind. (バスは５分遅れている。)
【説明】副詞「behind」は「遅れている」という遅れを表わしています。
また、「behind」は動詞「is」を修飾しています。
副詞「behind」の説明は以上です。
まとめ
前置詞(副詞)「behind」について解説しました。今回学んだことを以下にまとめます。
・「～の後ろに」という『位置』
1. 後ろの位置の「behind」
- 前置詞の目的語として位置の基準とする語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)の後ろに」という修飾要素を作ります。
2. 遅れの「behind」
- 前置詞の目的語に、進み具合の比較対象となる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)に遅れて」という修飾要素を作ります。
3. 背後事情の「behind」
- 前置詞の目的語に、背後に事情があると考えられる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)の背後にある」という修飾要素を作ります。
4. 支援・支持の「behind」
- 前置詞の目的語に、支援の対象となる語句を置いた場合、「(前置詞の目的語)を支援して」という修飾要素を作ります。
