英文法の『時制の一致』について、分かりやすく説明します。
まずは、『時制の一致』について、感覚的に説明したいと思います。
『時制の一致』の感覚的な説明
例えば、次のような2つの文があります。
①「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していると言った」
②「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していたと言った」
これらを英語に訳した場合、次のうちどれがベターな回答になるでしょうか。
考えてみてください。
A)「I told her that I love her.」
B)「I told her that I loved her.」
C)「I told her that I had loved her.」
さて、答え合わせをしましょう。
①の「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していると言った」と英語で表現する場合、B)の「I told her that I loved her.」がベターな回答になります。
②の「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していたと言った」と英語で表現する場合、C)の「I told her that I had loved her.」がベターな回答になります。
さて、勘のいい人はここで日本語と英語の表現の違いに気付くかと思います。
日本語の場合、発言をした過去の時点において「愛している」のであれば、そのまま「愛している」と表現しますが、英語の場合、動詞〔love〕の過去形〔love〕が使われます。
また、日本語の場合、発言をした過去の時点において「愛していた」のであれば、そのまま「愛していた」と表現しますが、英語の場合、動詞〔love〕の過去完了形〔had loved〕が使われます。
なぜ日本語と英語の表現が違うか
日本語と英語でなぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
この答えは、英語には過去よりも前の過去である『大過去』という概念があるからだと考えられます。
英語の場合、過去完了形を使えば『大過去』を表現することができます。
例えば、②の「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していたと言った」を英語で表現する場合、「言った」を〔say〕の過去形〔said〕で表し、「言った」時点よりも前の時点(大過去)の「愛していた」という状態は過去完了形〔had loved〕で表します。
また、①の「私は(私が)彼女に彼女のことを愛していると言った」を英語で表現する場合は、「言った」を〔say〕の過去形〔said〕で表し、「言った」時点と同じ時点における「愛している」という状態は「言った」の〔said〕と同じ過去形の〔loved〕で表します。そして、このようにして時制を合わせることを『時制の一致』といいます。この『時制の一致』というルールは日本語にはない英語特有のものです。
ちなみに、日本語には『大過去』という表現方法がないため、発言した時点で「愛している」場合には現在的な表現になり、「愛していた」場合には過去的な表現になります。
なんとなく『時制の一致』についてお分かりいただけましたでしょうか。
続いて、『時制の一致』に関して、文法的に説明したいと思います。
『時制の一致』の文法的な説明
『時制の一致』とは、複文において、主節の動詞の時制の影響を受け、従属節の動詞がそれに応じた時制をとることをいいます。
単文は、1つの主語(S)と1つの述語動詞(V)から成る文のことをいいます。つまり、「主語(S)+述語動詞(V)」の組合せが1つの文を単文といいます。
複文とは、「主語(S)+述語動詞(V)」の組合せが2つ以上あって、それが従属接続詞(従位接続詞)(that, whenなど)や関係詞、疑問詞で結ばれているものをいいます。つまり、従属接続詞や関係詞、疑問詞によって、従属節(S+V)が主節(S+V)に結びつけられた文を複文といいます。
主節や従属節について分からない方は、下記リンクより学習できます。
『時制の一致』が行われるのは主節の動詞が過去時制の場合
『時制の一致』が行われるのは、主節の動詞が過去時制に属する場合で、従属節の動詞はその影響を受け、次のように時制が変わります。
ちなみに、主節の動詞が現在、現在完了、未来時制に属する場合には、従属節の動詞は主節の時制の影響を受けない、つまり『時制の一致』のルールの適用外であり、従属節の中の動詞はその意味に従って時制を決めればよいです。
それでは、複文の主節の動詞を現在時制から過去時制に代えて『時制の一致』を行った例文を確認しながら、『時制の一致』について理解を深めていきましょう。
例文を通して『時制の一致』を理解しよう
従属節内の動詞 現在形⇒過去形
I think that he knows my sister. (彼は私の姉を知っていると思う)
⇒I thought that he knew my sister. (彼は私の姉を知っていると思っていた)
主節の現在形の動詞〔think〕を過去形の〔thought〕にすると、従属節の現在形の動詞〔knows〕が『時制の一致』によって、過去形の〔knew〕に代わります。
『時制の一致』をうけた文を日本語訳する際は、次の点に注意しましょう。
⑴主節と従属節の動詞がともに過去形の時には、従属節の動詞は現在のように訳す。
He says that he can swim across the river. (彼はその川を泳いで渡れると言っている)
⇒He said that he could swim across the river. (彼はその川を泳いで渡れると言っていた)
主節の現在形の動詞〔says〕を過去形の〔said〕にすると、従属節の現在形の助動詞〔can〕が『時制の一致』によって、過去形の〔could〕に代わります。
従属節内の動詞 過去形⇒過去完了形
It seems that he noticed me then. (彼はその時私に気付いたらしい)
⇒It seemed that he had noticed me then. (彼はその時私に気付いたらしかった)
主節の現在形の動詞〔seems〕を過去形の〔seemed〕にすると、従属節の過去形の動詞〔noticed〕が『時制の一致』によって、過去完了形の〔had noticed〕に代わります。
『時制の一致』をうけた文を日本語訳する際は、次の点に注意しましょう。
⑵主節の動詞が過去形で、従属節の動詞が過去完了形の時には、従属節の動詞は過去または現在完了のような訳し方になる。
She says that she was married to a lawyer. (彼女は弁護士と結婚していたと言っている)
⇒She said that she had been married to a lawyer. (彼女は弁護士と結婚していたと言っていた)
主節の現在形の動詞〔says〕を過去形の〔said〕にすると、従属節の過去形の動詞〔was〕が『時制の一致』によって、過去完了形の〔had been〕に代わります。
従属節内の動詞 現在完了形⇒過去完了形
I wonder if he has ever been there. (彼はこれまでそこへ行ったことがあるのかしら)
⇒I wondered if he had ever been there. (彼はこれまでそこへ行ったことがあるのかしらと思った)
主節の現在形の動詞〔wonder〕を過去形の〔wondered〕にすると、従属節の現在完了形の動詞〔has been〕が『時制の一致』によって、過去完了形の〔had been〕に代わります。
I can’t get into the house because I have lost my key. (かぎをなくしてしまったので、家の中にはいれません)
⇒I couldn’t get into the house because I had lost my key. (かぎをなくしてしまったので、家の中にはいれません)
主節の現在形の助動詞〔can〕を過去形の〔could〕にすると、従属節の現在完了形の動詞〔have lost〕が『時制の一致』によって、過去完了形の〔had lost〕に代わります。
従属節内の動詞 過去完了形⇒過去完了形
The manager says that the building had already been completed when he arrived in 2010. (支配人は彼が2010年に着いたときには、その建物はもう完成していたと言う)
⇒The manager said that the building had already been completed when he arrived in 2010. (支配人は彼が2010年に着いたときには、その建物はもう完成していたと言った)
主節の現在形の動詞〔says〕を過去形の〔said〕にした場合、従属節の過去完了形の動詞〔had been〕はそのまま過去完了形がキープされます。
『時制の一致』の例外
主節の動詞が過去形でも、従属節の動詞をそれに一致させなくてもよいという例外があります。
従属節が不変の真理や真実を表わし、それを強調したい場合
従属節の内容が不変の真理や真実であることを強調したい場合は、その部分を現在形のままにして目立たせることがあるようです。(不変の真理や真実を言う場合、感覚的には、基本的に時制の一致は適用されないが、時制を一致させてもよいといった感じです)
The teacher says that two parallel lines never cross each other. (先生は2本の平行線は相交わらないと言う)
⇒The teacher said that two parallel lines never cross each other. (先生は2本の平行線は相交わらないと言った)
主節の現在形の動詞〔says〕を過去形の〔said〕にしても、従属節の現在形の動詞〔cross〕は『時制の一致』を適用せず、そのまま現在形を使います。
従属節が現在の事実・習慣を表し、それを強調したい場合
従属節の内容が現在にも当てはまる時には、意味を明確にするために、現在形または未来形のままにして目立たせることがあるようです。(現在の事実・習慣を言う場合、感覚的には、基本的に時制の一致は適用されないが、時制を一致させることもよくあるといった感じです)
He says that Tokyo is the capital of Japan. (彼は東京が日本の首都であると言う)
⇒He said that Tokyo is the capital of Japan. (彼は東京が日本の首都であると言った)
主節の現在形の動詞〔says〕を過去形の〔said〕にしても、従属節の現在形の動詞〔is〕は『時制の一致』を適用せず、そのまま現在形を使います。
従属節が歴史上の事実を表わす場合
従属節の内容が歴史上の事実を表わす場合は、常に過去形で表します。(動詞は過去形のままで、過去完了形にはしない)
The teacher teaches us that Newton discovered the law of gravitation. (先生は我々にニュートンが引力の法則を発見したと教える)
⇒The teacher taught us that Newton discovered the law of gravitation. (先生は我々にニュートンが引力の法則を発見したと教えた)
主節の現在形の動詞〔teaches〕を過去形の〔taught〕にしても、従属節の過去形の動詞〔discovered〕は『時制の一致』を適用せず、そのまま過去形を使います。
『時制の一致』が行われない場合
先にも説明しましたが、主節の動詞が現在、現在完了、未来時制に属する場合には、従属節の動詞は主節の時制の影響を受けない、つまり『時制の一致』のルールの適用外であり、従属節の中の動詞はその意味に従って時制を決めればよいです。
例文を確認してみましょう。
He will probably say that it was your fault. (彼はきっとそれは君の失敗だったと言うだろう)
例文では、主節〔He will probably say〕の動詞は未来時制で、従属節〔that it was your fault〕の動詞は過去時制になっています。
She has argued that global warming will become an even more serious problem in the future. (彼女は、地球温暖化は将来さらに深刻な問題になるだろうと主張したことがある)
例文では、主節〔She has argued〕の動詞は現在完了時制で、従属節〔that global warming will become an even more serious problem in the future〕の動詞は未来時制になっています。
『仮定法過去』に『時制の一致』は当てはまらない
英語の動詞の過去形には、過去の時制を表わす『時制の用法』を意図とする場合と、現在や未来の仮定のことを表す『仮定の用法』を意図する場合がありますが、主節の過去形の動詞が『仮定の用法』によって過去形になっている場合、『時制の一致』のルールに従う必要はありません。
例文で確認してみましょう。
I wish I were as slim as you. (あなたくらいスリムだったらなあと思います)
⇒I wished I were as slim as you. (あなたくらいスリムだったらなあと思いました)
主節の現在時制の動詞〔wish〕を過去時制の〔wished〕にしても、従属節の『仮定の用法』を意図した過去形の動詞〔were〕は『時制の一致』の影響を受けず、過去形の〔were〕のままとなります。
He says that he would go abroad if he were rich. (彼はもし金持ちなら外国へ行くだろうと言う)
⇒He said that he would go abroad if he were rich. (彼はもし金持ちなら外国へ行くだろうと言った)
主節の現在時制の動詞〔says〕を過去時制の〔said〕にしても、従属節の『仮定の用法』を意図した過去形の(助)動詞〔would go〕〔were〕は『時制の一致』の影響を受けず、過去形の〔would go〕〔were〕のままとなります。
ちなみに、仮定法に関して詳しく知りたい方は下のリンク先で学べます。
以上、『時制の一致』の分かりやすい解説でした。